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【社員が「変わらない」時、社長は何を「変える」のか?】「問題社員」を通して、自分自身を観る
「社員がなかなか変わらない」「もっと自分で考えて行動して欲しい」。
経営者であれば、一度はそんな思いを抱いたことがあるのではないでしょうか。特に、仕事は出来るのに周囲との間で問題を起こす社員を前にすると、「本人に変わって欲しい」と考えるのは自然なことです。
しかし社員に「変わる」ことを求める時、変えるものは本当に社員だけなのでしょうか。
この記事では、「問題社員」を一つの入り口に、社員を見ている経営者自身の「レンズ」、そして社員との「関わり方」について考えてみたいと思います。
このブログの章立て
- 導入 「あの部長を何とかして欲しい」
- 第1章 問題は、本当に「その人」だけなのか?
- 第2章 社長はどんな「レンズ」で社員を見ているのか
- 第3章 社員は社長の「何」を観ているのか
- 第4章 社員から、どんな社長だと思われていますか?
- 第5章 「変える」のか、それとも「変わる」のか?
- 第6章 社長は自分の「何」を変えるのか?
- 終章 「社員を見ている自分」を観る
筆者プロフィール
- 砂村 義雄
- ステッププラス・コーチング&コンサルティング代表、エグゼクティブコーチ
- 国内外企業での30年の勤務経験を活かし、経営者・管理職の課題解決・目標達成にコーチングで伴走。中小企業診断士・MBA・国際コーチング連盟(ICF)プロフェッショナルコーチ(PCC)
導入 「あの部長を何とかして欲しい」
経営者とのコーチングで、時折こんな相談を受けることがあります。
「ある事業部長について相談したいんです。とにかく仕事が出来る。業績も上げていて、会社にとっては非常に重要な人材です。ただ、部下への当たりが厳しく、そのやり方についていけない社員が疲弊している。退職者も出ているんです。」
社長からすれば、いわば「仕事が出来る奴」です。
事業を任せられる。結果も出す。業績への貢献も大きい。その人が抜ければ、事業への影響も小さくありません。しかし、その一方で、部下との間では問題が起きている。
「本人のやり方を何とか変えられないだろうか」
そんな相談です。
社長の気持ちはよく分かります。
しかし問題があるからといって、会社を支えている人材にすぐ辞めてもらえばよい、というほど経営は単純ではありません。できることなら、その人の力を生かしながら、問題となっているやり方を変えてもらいたい。経営者としては自然な発想でしょう。
ただ、こうした相談を受けたとき、私はすぐに「では、その事業部長をどう変えるか」という話には入りません。
先ず、このように尋ねます。
「社長ご自身は、その方のやり方をどう感じていますか?」
すると、少し間が空くことがあります。
私は「会社として、その方をどう評価していますか?」と訊いている訳ではありません。
「社長ご自身は」と、あえて主語を置いています。
その言葉の裏には、経営者としての損得や人事上の判断をいったん脇に置いたときに、一人の人として、その人の行動をどう感じているのか――そんなことも考えて頂きたい、という私自身の思いがあります。
この問いへの社長からの返答を聞いた後、私はもう一つ、淡々と尋ねます。
「その方を会社に留めようとする理由は何ですか?」
- 業績への貢献が大きいからなのか。
- その人に代わる人材がいないからなのか。
- 事業への影響を考えると、辞めてもらうという選択肢は現実的ではないからなのか。
あるいは、その人のやり方に問題を感じながらも、結果を出していることを優先してきた部分があるのかも知れません。
もちろん本人に、問題となる行動を取っている責任があります。
そしてその人にも、その人なりの仕事のやり方があり、そうした行動を取る本人なりの理由や背景もあるのでしょう。そのやり方でこれまで、成果を上げてきたのかも知れません。
だから「問題のある本人を矯正すれば、それで解決する」と単純に考えることが出来ないのです。
ここで少し視点を広げてみると、別の問いが浮かんできます。
『問題は、本当に「その人」だけにあるのでしょうか。』
第1章 問題は、本当に「その人」だけなのか?
社長がその人の何を評価し、何を問題だと感じ、どこまでを許容するのか。そこには、その社長自身の人や組織に対する考え方が表れます。
そう考えると、「問題のある事業部長をどう変えるか」という問いだけでは、課題を少し狭く捉えているような気がします。
「問題社員」を見ていると、その人を見ている自分自身の価値観や判断基準も見えてくる。
つまり問題社員が、時として経営者自身の経営を映す「鏡」のような存在になることもあるのではないでしょうか。
『自分は、この人の何を見ているのだろう?』
こんな問いを置いてみると、これまでとは少し違ったものが見えてくるかも知れません。
第2章 社長はどんな「レンズ」で社員を見ているのか
そもそも私たちは、相手を「そのまま」見ている訳ではないのかも知れません。
同じ人を見ても、「仕事が出来る人」と見る人もいれば、「周囲を振り回す人」と見る人もいる。同じ行動でも、見る人によって受け取り方は違います。
つまり私たちは誰でも、自分なりの「レンズ」を通して人を見ているのではないでしょうか。
心理学では、人は相手をそのまま見ているのではなく、自分が持っている知識や経験、期待なども影響しながら相手を捉えている、と考えられています。また哲学でも、私たちは物事を常に、ある立場や視点から見ているという考え方があります。
つまり、「何を見るか」だけではなく、「誰が、どこから見るか」によっても、見えるものは変わってくる。
私がここでいう「レンズ」も、そんな意味合いです。
例えば、以前こんなことがありました。
ある人が私に、
「〇〇さんって、おしゃべりだよね!周りの人や出来事などをいつも話している」
と言いました。
ところが私から見ると、そう話している本人が相当なおしゃべりだと感じています。
人は、自分が気になっていること、あるいは自分が大切にしていることほど、相手の中にも見つけやすいのかも知れません。
経営者が社員を見るときも、同じことが起きているような気がします。
- ・主体性がない
- ・決断が遅い
- ・変化を嫌がる
そう見えていること自体が間違っている、ということではありません。
ただ、そこには経営者自身の経験や価値観、「社員ならこうあるべき」という期待も影響しているのではないでしょうか。
従って問題なのは、私たちがレンズを持っていることではなく、
自分がどんなレンズを通して相手を見ているのか、そのレンズ自体が自分には見えにくいこと。
先程の事業部長も、ひょっとしたら社長には「多少の問題はあっても、仕事が出来る重要な人材」と見えている。
一方、その下で働く社員には、まったく違う姿に見えているかも知れません。
同じ人を見ていても、「社長のレンズ」と「社員のレンズ」では、見えているものが同じとは限らないのです。
第3章 社員は社長の「何」を観ているのか
社長は自分なりの「レンズ」を通して社員を見ている。
一方で、社員もまた、各人の「レンズ」を通して会社を見ています。上司を見ています。そして、社長であるあなたのことも見ています。
例えば、
- ・朝礼で社員の前に立った時
- ・社内の会議で社員と話している時
- ・あるいは、廊下ですれ違った社員とふと目が合った時
そして社員は、社長の言葉だけを聞いているわけではありません。
社長が、
- ・もっと挑戦して欲しい
- ・失敗を恐れずにやって欲しい
- ・自分で考えて行動して欲しい
と伝えれば、その言葉とともに、実際の社長の行動も観ています。
- ・挑戦した結果、失敗した社員にどう反応するのか。
- ・自分とは違う意見が出たとき、どう受け止めるのか。
- ・「任せる」と言った仕事に、どこまで口を出さずにいられるのか。
先程の事業部長の例であれば、社員はその事業部長だけを見ている訳ではありません。
その事業部長を、社長がどう扱うのかも観ています。
「社員を大切にする会社にしたい」と社長が語る。一方で、業績を上げる事業部長の問題行動が長く続いている。
そのとき社員は、そこから何を感じ取るでしょうか。
社長が伝えようとしていることと、社員が実際に受け取っていること。
そこには、ときにギャップがあるのかもしれません。
第4章 社員から、どんな社長だと思われていますか?
経営者へのコーチングの中で、私はこんな問いを投げかけることがあります。
「社長は、社員からどんな社長だと思われていると思いますか?」
すると、しばらく沈黙が続くことがあります。
もちろん、その沈黙の理由は人それぞれです。
- これまで、そんなことを考えたことがなかったのかも知れません。
- 何となく感じてはいたけれど、あらためて言葉にしようとすると難しいのかも知れません。
- あるいは、社員から見た自分の姿を想像して、何か思い当たることがあるのかも知れません。
経営者は、日々社員を見ています。
誰が成長しているのか。誰に何を任せるのか。誰にもう一段頑張って欲しいのか。
では、その視線を反対にしてみる。
自分が思っている「自分」と、社員から見えている「自分」。そこには、思っている以上に「ずれ」があるかもしれません。
『その「ずれ」は、社長であるあなたに何を伝えてくれますか?』
第5章 「変える」のか、それとも「変わる」のか?
経営者とコーチングについて話をしている時、こんな言葉を聞くことがあります。
「コーチング?俺はいいよ、必要ないよ。むしろ部下のアイツに受けてもらいたいんだよね」
問題があるのは部下であり、変わって欲しいのも部下。
そう考えるのは、ある意味では自然なことなのかもしれません。
というのも経営者は日々、会社の中にある問題を見つけ、判断し、何かを変えていく立場にいるからです。
一方で、以前こんなことを相談された社長もいました。
「社員には『我々は変わらなければならない』と伝えています。でも一方、自分はどう変わったら良いのかが分からないんです」だから、それを見つけるためにコーチングを受けてみたい、と。
この二人の社長のどちらが良い、悪いという話ではありません。ただ、私は後者の言葉を聞いたとき、とても印象に残りました。
会社を変える。組織を変える。社員に変化を求める。経営者は、どうしても「変える側」に立つことが多くなります。
では、その「変える側」にいる自分自身はどうなのでしょうか。
社員や組織に「変わる」ことを求める一方で、自分自身もまた「変わる対象」なのかもしれない。
そう考えたとき、もう一つの問いが浮かびます。
『では、社長は自分の「何」を変えるのでしょうか?』
第6章 社長は自分の「何」を変えるのか?
性格を変えるということではないでしょう。これまでの自分のやり方を、全て否定することでもありません。
ここで、私自身の会社員時代の経験を一つ思い出します。
経理部門で管理職をしていた頃、経理とは別の部門から異動してきた人が私の上司になりました。経理については専門外です。細かな実務については、当然ながら私の方が詳しい。
ところが、その上司の下では私は安心して、伸び伸びと仕事をすることができました。
基本的には、私が良いと思うやり方で仕事をさせてくれる。しかし一方で、何でも私に任せる訳ではありません。
あるとき、こんな指示を受けました。
「ここまでは砂村がやれ。ここ以外は俺がやる」
その「ここまで」の線引きが絶妙でした。
私がすでに出来ることだけを任せるのではなく、少し背伸びをすれば手が届くところまでを私に任せる。私の業務領域が少しずつ広がっていくようなところに、境界線を引いていたように思います。
そして、その先の判断や部外との折衝などは、自分が引き受ける。
振り返ってみると、私は「任されている」と感じると同時に、「最後は一人で背負わなくてもいい」という安心感を持ったのでしょう。
その上司から、「もっと主体的になれ」と言われた記憶はありません。また、「自分で考えて行動しろ」と繰り返し言われた訳でもありません。でも、私は自分で考え、自分で判断し、少しずつ自分の仕事の領域を広げていきました。
今振り返ると、その上司は私を「変えよう」としていた訳では無かったように思います。
上司本人がどこまで意識してそうしていたのかは、今となっては分かりません。しかし、少なくとも部下だった私には、確かな影響があったように感じます。
『上司自身の私への「関わり方」が、私の行動が変わる余地をつくっていた。』
だからこそ今でも、その上司は私にとっての“My Best Boss”なのだと思います。
そう考えると、社長が変えるものは、性格や能力ではなく、
- ・社員をどう見るのか。
- ・社員の行動にどう反応するのか。
- ・どこまで任せ、どこで自分が引き受けるのか。
そんな、自分と社員との「関わり方」を見直してみる。
『「人を変える」のではなく、「人が変わる余地をつくる」。』
社長自身が変わるとは、そんなところから始まるのかも知れません。
終章 「社員を見ている自分」を観る
ここまで書いてきて、当たり前ではありますが改めて思うことがあります。
社長には、上司がいない。
社員であれば、上司から、
- ・もう少し部下に任せた方がいい。
- ・少し口を出し過ぎじゃないか。
- ・もっと周りの意見を聞いた方がいい。
そんなことを言われる機会があります。
また、私自身もそうでしたが、先程の“My Best Boss”のように、上司との関わりの中で、自分の仕事の仕方や行動が変わっていくこともあります。
しかし、社長にはその上司がいません。
社員を評価し、社員にフィードバックをし、ときには「もっと変わって欲しい」と求める。
その一方で、社長自身の「関わり方」について、日常的にフィードバックしてくれる人は案外少ないのではないでしょうか。
だからこそ、社員に何か問題を感じたとき、それは自分自身を観る、見つめ直す一つの機会になるのかもしれません。
もし今、
「あの社員は、なぜ変わらないのだろう?」
と感じている社員がいるとしたら、その人を一人、思い浮かべてみてください。
そして、その社員を変える方法を考える前に、少しだけ自分自身に問いを向けてみる。
『自分は、その社員をどんな「レンズ」で見ているのだろう?』
『その社員からは、自分はどんな社長に見えているのだろう?』
そして、
「もし自分の関わり方を一つだけ変えるとしたら、何を変えてみるだろう?」
すぐに答えを出す必要はありません。
まずは一人の社員を思い浮かべ、自分自身に問いを向けてみる。
社員を「変える」ことと、自分自身が「変わる」こと。
その二つは、別々のことではないのかも知れません。
「社員を変える」の前に、「社員を見ている自分」を観る。
「変える立場」にいる社長だからこそ、ときには自分自身も「変わる対象」の中に置いてみる。
そこから、今までとは少し違う景色が見えてくるかもしれません。
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