Blog エグゼクティブ・コーチング
- CATEGORY
【なぜ社長は仕事を手放せないのか?】 プレーイングマネジャーから「選べる社長」へ
「経営者として視座を高く」と言われても……
「経営者として視座を高く持つ必要がある」
経営者や経営幹部の育成について話をしていると、よく耳にする言葉です。
- 「いつまでも現場の仕事ばかりしていてはいけない」
- 「もっと中長期的な視点で会社を見なければならない」
- 「自分で成果を出すのではなく、人や組織を通じて成果を出すことを考えるべきだ」
どれも間違ってはいません。むしろ、経営者であれば十分に理解していることではないでしょうか。
それでも実際には、顧客との打ち合わせに出かけ、社内会議に参加し、部下から上がってきた案件を判断する。重要顧客から連絡があれば自ら対応し、トラブルが起これば最後は社長が出ていって解決する。
そんな「プレーイングマネジャー社長」は、決して珍しくありません。
そして社員からは、
- 「やっぱり社長ですね」
- 「社長が出ると話が早い」
- 「このお客様は社長じゃないと難しい」
そんな言葉をかけられることもあるでしょう。
社長自身も、「もっと仕事を任せなければ」「自分はもっと先のことを考えなければ」と頭では分かっている。それなのに、気がつけば今日も目の前の仕事に追われ、一日が終わっている。
なぜこういうことになってしまうのでしょうか。
そして、そもそも「視座を高くする」とは、具体的に何をどうすることなのでしょうか。
私は、これは単なる時間管理や権限委譲の問題だけではないように感じています。
会社が成長する過程で、社長に求められる役割は変わっていきます。しかし、役割が変わったからといって、人間である社長自身が、それまで自分を支えてきた仕事の仕方を簡単に変えられるとは限りません。
本ブログでは、「プレーイングマネジャー社長」という姿を入り口に、会社の成長とともに社長の役割はどう変わるのか。そして「経営者として視座を高くする」とは実際にどういうことなのかを考えてみたいと思います。
このブログの章立て
- 第1章 「プレーイングマネジャー社長」は本当に悪いのか?
- 第2章 会社の成長と社長の「役割」との関係
- 第3章 「仕事人としての自分」と「経営者としての自分」―なぜ仕事を手放せないのか?
- 第4章 「分かっているのに変われない」―もう一人の自分から自分を見る
- 第5章 「視座を高くする」とは、どこから、何を見ることなのか?
- 第6章 一人では見えない自分―経営者に必要な「鏡」
- 終章 「何をするか」ではなく、「何をしないか」を決められる社長へ
筆者プロフィール
砂村 義雄
ステッププラス・コーチング&コンサルティング代表、エグゼクティブコーチ
国内外企業での30年の勤務経験を活かし、経営者・管理職の課題解決・目標達成にコーチングで伴走。中小企業診断士・MBA・国際コーチング連盟(ICF)プロフェッショナルコーチ(PCC)
第1章 「プレーイングマネジャー社長」は本当に悪いのか?
- 「社長はいつまでもプレーヤーをやっていてはいけない」
- 「現場の仕事は部下に任せ、経営に専念すべきだ」
確かに一理あります。しかしここでは、このような「社長とはこうあるべき」という前提を、いったん横に置いて考えてみましょう。
そもそも、多くの社長は最初から「経営だけ」をしてきたのでしょうか。
創業期や会社がまだ小さい時期を振り返ると、社長自身がプレーヤーであることには、むしろ大きな意味があります。
1.社長自身が、事業をつくる最大のプレーヤーだった
会社がまだ小さければ、社長自身が商品やサービスを考え、営業に行き、顧客の声を聞き、採用し、資金繰りを考える。トラブルが起これば、自ら対応する。
「これは社長の仕事、これは社員の仕事」と明確に分けること自体が難しい時期です。
むしろ、社長自身が動き、試行錯誤してきたからこそ、事業そのものが形になった。
そんな会社も多いのではないでしょうか。
2.「自分がやる」ことが、社長の強みになった
そうした経験を積み重ねれば、当然、社長には多くのものが蓄積されます。
- ・顧客を見る目
- ・商品やサービスについての知識
- ・重要な場面で最後に話をまとめる力
「自分がやる」という強い当事者意識と行動力は、会社が小さい時には大きな競争力になります。
つまり、プレーイングマネジャーであることは、必ずしも社長の弱点ではありません。むしろ、それが社長の「強み」だったからこそ、会社が成長したとも考えられます。
3.問題は、その「強み」をどこで使うか
では、何が問題なのでしょうか。
会社が成長し、社員が増え、組織ができ、事業も複雑になっていく。それにもかかわらず、社長自身の仕事の仕方が以前と変わっていないとしたらどうでしょう。
かつて会社を成長させた「自分がやる」という強みが、不要になるわけではありません。ただ会社の成長とともに、その強みの「使いどころ」が変わっていくように思います。
重要顧客との交渉で社長が前に出る。重大なトラブルで陣頭指揮を執る。そうした場面は当然あるでしょう。
ここで大切なのは、
- 「昔から自分がやってきたから、今も自分がやる」のか、
- それとも
- 「今、この仕事は社長である自分がやるべきだ」と判断してやるのか。
その違いです。
したがって、問うべきなのは、
「プレーイングマネジャー社長は良いのか、悪いのか」ではなく、「会社の成長に合わせて、社長自身の役割は変わっているか」ではないでしょうか。
第2章 会社の成長と社長の「役割」との関係
では、会社が成長すると、社長の役割はどのように変わるのでしょうか。
よく言われる「社長は現場から離れるべき」と考えるより、私は会社の成長に従って、社長が見るべき対象が広がっていくと捉えた方が分かりやすいと考えています。
その変化は、大きく3つに整理できます。
1.「目の前の仕事」から「会社全体」へ
会社が小さいうちは、社長自身が目の前の仕事を見ることに大きな意味があります。それが会社の日銭を稼ぎ、屋台骨となるからです。
しかし、社員が増え、組織ができ、事業が広がってくると、社長が見るべき対象も変わります。
例えば、
- ・どの市場に投資し、どこから撤退するのか
- ・誰を次のリーダーとして育てるのか
- ・会社を3年後、5年後にどこへ向かわせるのか
といったテーマです。
目の前の仕事が重要でなくなるわけではありません。
しかし、それを「自分がどう処理するか」ではなく、「会社全体としてどう扱うか」を考えることが、社長の仕事として重要になってきます。
2.「自分が成果を出す」から「組織として成果を出す」へ
プレーヤーの仕事は、成果が比較的分かりやすいものです。
営業に行って受注する。顧客との問題を解決する。難しい案件をまとめる。
私自身も管理職になりたての頃、しばしばこう感じていました。
「部下に任せるより、自分がやった方が5倍くらい速くて正確だ!」
プレーイングマネジャーの経験がある方なら、似た感覚を持ったことがあるかもしれません。
しかし、会社や組織が大きくなれば、一人の人間が直接生み出せる成果には限界があります。
そこで必要になるのが、
「自分が成果を出す」から「人と組織を通じて成果を出す」への転換
です。
ただし、これは単に「仕事を部下に振ること」ではありません。
誰に何を任せるのか。どこまで判断を委ねるのか。失敗をどこまで許容するのか。どのような人材を育てるのか。
社長自身が成果を出すことから、組織が成果を出せる環境をつくることへ、役割の重心が移っていきます。
3.「今の会社」から「これからの会社」へ
もう一つ変わるのが、見る「時間軸」です。
日々の売上、今月の利益、顧客対応、社内の問題。もちろん、どれも重要です。
しかし、今期の業績だけを見ていたら、3年後、5年後の会社は誰が考えるのでしょうか。
新しい市場、既存事業の見直し、新規事業、人材育成、後継者、組織文化、将来のリスク。
こうした緊急ではないけれど、会社の将来にとって重要なテーマほど、日々の仕事に追われると後回しになりがちです。
だからこそ社長には、
「今日の会社を動かす」だけでなく、「明日の会社をつくる」ための時間
が必要になります。
つまり、社長の役割が変わるとは、「仕事をしなくなる」ことではない。
ここまでを整理すると、会社の成長に伴う社長の役割の変化は、
- ・目の前の仕事 → 会社全体
- ・自分の成果 → 組織の成果
- ・現在 → 未来
という3つの方向で捉えることができます。
これは、「社長は現場から離れればよい」という話ではありません。
自分がどこまで関わり、どこから先を人に任せるのか。その境界を、会社の成長に合わせて変えていく。
そこに社長自身の役割転換があります。
私はコーチングの中で、ときどき社長にこんな問いを置くことがあります。
「社長、改めてですが、社長の仕事って何ですか?」
シンプルな問いですが、会社が成長すれば、その答えも以前とは変わっているはずです。
そして、おそらく多くの社長は、ここまでの話を頭では理解しているでしょう。
それでも、長年自分がやってきた仕事から離れられない。部下に任せたはずなのに、つい口を出してしまう。難しい案件になると、自分が前に出てしまう。
役割を変える必要があると分かっているのに、なぜ「仕事」を手放せないのか?
これが、次に越えたいハードルです。
第3章 「仕事人としての自分」と「経営者としての自分」―なぜ仕事を手放せないのか?
会社の成長に伴って、社長の役割も変わっていく。
頭では分かっていても、それまで自分がやってきた仕事を手放すことは、そう簡単ではありません。
- 「部下に任せるのが不安だから」
- 「自分でやった方が早いから」
- 「まだ任せられる人材が育っていないから」
もちろん、そうした現実的な理由もあるでしょう。
しかし、それだけでしょうか。
ここでは「社長」という肩書きをいったん横に置いて、「一人の人間」としての社長を考えてみたいと思います。
1.得意な仕事は、成果が見えやすい
長年やってきた得意な仕事には、何をすればよいのかが分かり、結果も比較的早く返ってきます。
- ・顧客との交渉がまとまった。
- ・大きな案件を受注した。
- ・難しいトラブルを解決した。
そこには「仕事をした」という明確な手応えがあります。
一方、会社の3年後を考える。次の経営人材を育てる。組織文化をつくる。
こうした経営者としての仕事は、今日取り組んだからといって、明日成果が見えるわけではありません。
成果が見えやすい「仕事人としての仕事」と、成果が見えにくい「経営者としての仕事」。
人が前者に引き寄せられるのは、ある意味、自然なことではないでしょうか。
2.「必要とされる自分」は、気持ちがいい
もう一つ、人間として無視できないものがあります。
- 「この案件は社長じゃないと難しいですね」
- 「やっぱり社長が行くと違いますね」
- 「最後は社長にお願いしましょう」
そう言われれば、悪い気はしないでしょう。
自分の経験や能力が会社の役に立っている。社員から頼られている。顧客から必要とされている。
そこには、売上や利益とは違う、「自分がこの会社に必要とされている」という実感があります。
一方、会社の将来を考えることや、人を育てることは、成果も見えにくければ、周囲から「さすが社長」と言われる機会も多くありません。
「社長も人の子」です。
「必要とされる自分」から離れることには、思っている以上に心理的なハードルがあるのではないでしょうか。
3.これまでの成功体験を、自分で手放せるか
そして、もう一つ難しいことがあります。
社長が今もやり続けている仕事の多くは、かつて自分を成功させてきた仕事でもあるということです。
- ・自分で顧客を開拓してきた。
- ・自分で商品をつくってきた。
- ・誰よりも働いて会社を大きくしてきた。
それらは、単なる「業務」ではありません。
「自分はこうやって成果を出してきた」「こうやって会社を大きくしてきた」という、社長自身の成功体験そのものです。
だから、会社が成長したからといって、
「明日から、それは部下に任せましょう」
と言われても、簡単に切り替えられるものではありません。
経営者として次のステージへ進むためには、ある意味、これまで自分を成功させてきた事柄の一部を、自分自身で手放さなければならないのです。
そして、手放すのは「仕事」だけではない。
- ・得意なこと
- ・成果を出しているという手応え
- ・周囲から頼られる自分
- ・自分をここまで成功させてきた仕事の仕方
だから、簡単ではないのです。
役割を変えなければならないことは分かっている。それでも、これまでと同じ仕事に戻ってしまう。
これは経営知識や権限委譲の技術だけの問題ではなく、人としてごく自然な心理が、変化にブレーキをかけているとも考えられます。
では、「変わらなければ」と分かっている自分と、なかなか変われない自分。
そのズレに、経営者自身はどう気付けば良いのでしょうか。
第4章 「分かっているのに変われない」―もう一人の自分から自分を見る
社長が仕事を手放せない背景には、単なる権限委譲の問題だけではなく、人としての心理があるのではないかと考えてきました。
- 「もっと部下に任せなければならない」
- 「自分は目の前の仕事ではなく、会社の将来を考えなければならない」
- 「いつまでも自分が前に出ていてはいけない」
おそらく、多くの社長は頭では分かっているでしょう。それでも、行動はなかなか変わらない。
そこには、「分かっている自分」と「実際にやっている自分」とのズレがあるのかもしれません。
1.「分かっている自分」と「やっている自分」は同じか?
例えば、自分では「仕事を部下に任せている」と思っている。
ところが部下から報告を受けると、
- 「それなら、こうした方がいい」
- 「そのお客様なら、自分から連絡しておこう」
- 「その提案書、一度自分に見せて」
と、いつの間にか仕事の中に入り込んでいる。本人には、部下を助けているという意識があるかもしれません。しかし、それを周囲はどう見ているのでしょうか。
私はコーチングセッションで時々、社長にこんな問いを投げかけることがあります。
「社員には、社長の働きぶりはどのように見えていると思いますか?」
この問いを置くと、一瞬、言葉が止まる社長も少なくありません。
自分が自分を見ている姿と、周囲から見えている姿。そこには、思っている以上にズレがあるのかもしれません。
2.忙しいときほど、自分自身は見えにくい
しかも社長は忙しい。
次々と判断を求められ、顧客から連絡が来て、問題が起これば対応する。そうして一日が終わります。
その一つひとつは、必要な仕事だったかもしれません。
しかし、
- 「今日、自分は何に時間を使ったのか?」
- 「その仕事は、本当に社長である自分がやる必要があったのか?」
と振り返る時間は、どれだけあるでしょうか。
皮肉なことに、忙しく働けば働くほど、「社長である自分」を見る時間がなくなることがあります。
3.「もう一人の自分」から、自分を見てみる
そこで、一度こんなイメージを持ってみてはどうでしょうか。
デスクで仕事をしている自分。顧客と商談している自分。部下と話している自分。
その姿を、もう一人の自分が天井から眺めていると想像してみる。
そして問いかけます。
「なぜ、あなたがその仕事をしているのですか?」
すぐに答えを出す必要はありません。大切なのは、仕事をしている自分と、その自分を見ている自分を少し分けてみることです。
会社全体を俯瞰して見ることは、経営者にとってもちろん重要です。
しかし、その前に、
会社を見ている「自分自身」を俯瞰して見る。
それが出来て初めて、「今、自分はどの役割で仕事をしているのか」に気付くことができるようなると思います。
では、そもそも「経営者として視座を高くする」とは、どこから、何を見ることなのでしょうか。
第5章 「視座を高くする」とは、どこから、何を見ることなのか?
第2章では、会社の成長に伴う社長の「役割」の変化を3つの方向から考えました。
ここでは「視座」という観点からもう一段掘り下げてみたいと思います。
私が特に重要だと考えているのは、4つ目の視点です。
1.時間軸――「今日」から「未来」へ
一つ目は、見る時間の長さです。
日々の売上、今月の利益、今期の業績だけでなく、
- ・3年後、5年後に会社をどうしたいのか
- ・今の事業は将来も成長できるのか
- ・次の事業の柱をどうつくるのか
- ・将来、どのような人材が必要になるのか
といった、すぐには答えの出ない問いを見る。
「今、何が起きているか」だけでなく、「この先、何が起こり得るか」を見る。
これが一つ目の変化です。
2.見る範囲――「自分・自部門」から「会社全体」へ
二つ目は、見る範囲です。
営業、製造、技術、財務。それぞれの立場から見れば、それぞれの「正しさ」があります。しかし、一つの部門にとっての最適が、必ずしも会社全体の最適とは限りません。
経営者には、
「自分の担当領域にとって正しいか」ではなく、「会社全体として何を優先すべきか」
を見ることが求められます。
3.成果の主体――「自分」から「人・組織」へ
三つ目は、「誰が成果を出すのか」です。
自分が顧客と交渉し、自分が問題を解決する。それによって成果が出れば、非常に分かりやすい。しかし、組織が大きくなるほど、社長一人が直接生み出せる成果には限界があります。
そこで、
「自分が何を成し遂げたか」から、「自分がいなくても、人や組織が何を成し遂げられるようになったか」へ。
成果を見る視点そのものを変える必要があります。
ここまでは、第2章で考えた社長の「役割」の変化とも重なります。
更に私は、経営者の視座には、もう一つ重要な軸があると思います。
4.見る対象――「会社」だけでなく「自分自身」へ
それは経営している「自分自身」を見ることです。
例えば、
- ・自分は何に時間を使っているのか
- ・どんな案件になると、つい自分が前に出るのか
- ・どのような判断を部下に任せられないのか
- ・自分の得意分野に偏って会社を見ていないか
会社や組織を俯瞰して見るだけではなく、その会社を見ている自分自身も、俯瞰する対象に入れる。
私は、この4つ目が意外に重要なのではないかと思います。
自分自身の認知や思考、行動を一段上から捉え、それを認識したり調整したりする働きは、心理学では「メタ認知」と呼ばれています。
心理学ワールド 100号 「弱み」を「強み」に変える心理学 メタ認知の心理学 | 日本心理学会
少し難しい言葉ですが、経営者に置き換えれば、
「社長として働いている自分を、もう一人の自分が少し離れたところから見る」
と考えると分かりやすいかもしれません。
例えば、重要顧客からトラブルの連絡が入った。
これまでなら、
「自分が行った方が早い」
と直感的に、即座に動いていた。
しかし今度はほんの少し立ち止まって、
「なぜ、自分が行かなければならないと思ったのだろうか?」
と、自分の判断そのものを見てみる。
この一瞬の「間」があることで、いつもと違う選択肢が見えてくるかもしれません。
つまり、視座を高くするとは「高いところから会社を見る」ということだけではない。
こう捉えると「経営者として視座を高くする」とは、単に会社を高いところから俯瞰することではないように思います。
- ・より長い時間軸で見る
- ・より広い範囲を見る
- ・自分ではなく、人や組織の成果を見る
- ・そして、経営している自分自身を見る
この4つを行き来できることが、「経営者として視座を高くする」ことなのではないでしょうか。
ここまで定義付けをしてきて気付く、別の課題があります。
自分自身を、自分一人でどこまで客観的に見ることができるのでしょうか。
鏡がなければ自分の顔を見ることができないように、自分自身を見るためにも、時には誰かの目が必要になります。
では、経営者にとっての「鏡」となる存在とは、どういうものでしょうか?
第6章 一人では見えない自分―経営者に必要な「鏡」
「経営している自分自身を見る」ことは、口で言うほど簡単なことではありません。
自分では「部下に任せている」と思っていても、周囲から見れば細かなところまで口を出しているかもしれません。
自分では「会社の将来を考えている」と思っていても、実際には今期の数字ばかりを気にしているかもしれません。
自分では「会社全体を見ている」と思っていても、長年経験してきた得意分野から会社を見ているかもしれません。
だからこそ経営者にはときに、自分自身を映してくれる「鏡」が必要なのではないでしょうか。
1.仕事を任せられる人――「社長がやらなくてもよい状態」をつくる
プレーイングマネジャー社長が自分の仕事を減らしていくためには、当然ながら、その仕事を任せられる人が必要です。
No.2、COO、役員、部長、専門人材など、その形は会社によって異なるでしょう。
重要なのは、単に社長の仕事を代わりに処理してくれることではありません。
- ・一定の範囲を自ら判断できる
- ・社長とは違う専門性や視点を持っている
- ・必要なときには社長に異論を言える
- ・人や組織を動かして成果を出せる
こうした人材が育つことで、初めて社長は「自分がやらなければ」という状態から離れていくことができます。
これはいわば、社長の「仕事」を支える存在です。
しかし、仕事を任せられる人さえいれば、社長は本当に仕事を手放せるのでしょうか。
2.もう一つ必要なのは、「社長自身」を映してくれる人
仕事を任せられる人がいても、社長自身が任せきれなければ、いつの間にか仕事を取り戻してしまいます。だからもう一つ、違う役割を持つ人が必要になることがあります。
それは、社長自身が気づいていない思考や行動を映し返してくれる人です。
例えば、
- 「それは本当に社長が決めるべきことですか?」
- 「今の会社にとって、社長が一番時間を使うべきことは何でしょう?」
そんな言葉を、必要なときに率直に返してくれる人です。
それは信頼できる経営幹部かもしれません。先輩経営者、社外役員、メンター、あるいは外部の専門家の場合もあるでしょう。
そして、誰であるか以上に重要なのは、
「社長が、自分では見えていない自分に気付ける関係性があるかどうか」
だと思います。
3.「仕事を任せる」と「自分を映してもらう」は、別のこと
この点はぜひ明確に区別しておきたいところです。
一つは、仕事を任せられる人。
社長がやらなくても会社が動く状態をつくるための存在です。
もう一つは、社長自身を映してくれる人。
自分が何をしているのか、なぜそれを手放せないのか、本来どこに時間を使うべきなのかに気づくための存在です。
前者だけでは、社長自身が仕事を取り戻してしまうかもしれません。
後者だけでは、いくら気づいても、実際に仕事を任せる相手がいません。
つまり、プレーイングマネジャー社長の役割転換には、
- 「仕事を手放せる状態をつくること」と、
- 「仕事を手放せない自分自身にも気づくこと」
の両方が必要なのではないでしょうか。
そして、ここまで来ると、社長の役割転換とは単に「仕事を減らすこと」ではないことが見えてきます。そして、社長が現場からいなくなることでもありません。
むしろ、自分が本当にやるべき仕事を選び、それ以外を人に任せられるようになることです。
そのためには、「これから何をするか」を考えるだけではなく、もう一つ避けて通れない問いがあります。
「自分は、何をしないのか?」
そう問われて皆さんは、何を頭に思い浮かべますか?
終章 「何をするか」ではなく、「何をしないか」を決められる社長へ
プレーイングマネジャーであること自体が、問題なのではありません。
問題は、会社が変わっているのに、社長自身の役割が変わっていないことです。
では、社長の役割が変わったことを、何で判断すればよいのでしょうか。
私は、その一つが、
「何をしないか」を自分で決められること
ではないかと思います。
「できる仕事」と「やるべき仕事」は同じではない。
社長には、できる仕事がたくさんあります。
- ・重要顧客との交渉もできる
- ・提案書にも意見できる。
- ・トラブルが起きれば自ら解決できる。
しかし、
「自分にできる」ことと、「社長である自分がやるべき」ことは同じではありません。
「これは自分にもできる。しかし、自分がやる仕事ではない」
そう判断して誰かに任せる。
それは仕事を放棄することではありません。社長にしか使えない時間を、社長にしかできない仕事へ振り向けるための意思決定です。
社長の時間も「経営資源」、そして有限な資源です。
社長が一時間を目の前の案件に使えば、その一時間を会社の将来を考えることには使えません。
だからこそ、
「今、この会社にとって、社長である自分の時間をどこに配分することが最も価値を生むのか?」
を考える必要があります。
そこで一度、試して頂きたいことがあります。
直近一週間の予定表を眺め、自分が時間を使った仕事を、次の3つに区分してみてください。
- A:社長である自分にしかできない仕事
- B:今は自分がやる必要がある仕事
- C:本来は自分がやらなくてもよい仕事
厳密に分類する必要はありません。
Cに入った仕事を見ながら、
「なぜ、自分はまだこの仕事をやっているのだろう?」
と考えてみる。
そこには人材不足などの現実的な理由もあれば、「自分でやった方が早い」「自分が見ておかないと不安だ」といった、自分自身の側の理由もあるかもしれません。
つまり、プレーヤーをやめるのではなく、「選べる社長」になる、ということ。
社長が現場に入るべき局面はあります。重要顧客と自ら話すべき場面も、ここ一番で先頭に立つべきときもあるでしょう。
大切なのは、
- 「気がつけば自分がやっている」のか、
- 「今は自分がやるべきだと判断してやっている」のか。
その違いです。
プレーヤーをやめることが、経営者になることではありません。
会社の成長に合わせて自分の役割を見直し、ときには周囲の力も借りながら、「自分がやる仕事」と「自分がやらない仕事」を自ら選べるようになること。
それが、プレーイングマネジャーとして会社を育ててきた社長が、次のステージへ進むということなのだと思います。
もし最近、「忙しい」と感じているのであれば、一度こんな問いを置いてみてはいかがでしょうか。
「今、自分がやっている仕事の中で、社長である自分がやらなくてもよい仕事は何だろう?」
そして、その時間を、
「社長である自分は、何に使うのだろう?」
シェアする

