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【財務数字は読めるのに、なぜ経営判断を誤るのか?】 数字の奥にある「構造」を見る経営者の思考法 ― 構造起点思考(SDCモデル)とは
このブログを読むとわかること
- 1.財務数字は「答え」ではなく「結果」である
- 2.経営者は「数字」と「感情」の間で意思決定している
- 3.経営判断を歪める「見えないバイアス」
- 4.強い経営者は「構造起点思考(SDCモデル)」で意思決定する
- 5.「構造起点思考」を後押しする仕組み
- 6.まとめ:強い経営者は「正しい答え」を探さない
筆者プロフィール
- 砂村 義雄
- ステッププラス・コーチング&コンサルティング代表、エグゼクティブコーチ
国内外企業での30年の勤務経験を活かし、経営者・管理職の課題解決・目標達成にコーチングで伴走。中小企業診断士・MBA・国際コーチング連盟(ICF)プロフェッショナルコーチ(PCC)
1.財務数字は「答え」ではなく「結果」である
- 経営者や管理職の皆さんは、日々、さまざまな数字と向き合っていることでしょう。
- 売上高、利益率、キャッシュフロー、ROE、KPI……。
- 企業活動は数字で表されることが多く、「経営とは数字である」と言われることも少なくありません。
私自身も30年以上、国内外企業の経理財務・経営企画部門で仕事をしてきました。経営会議では数字を分析し、予算を策定し、事業の収益性を評価することが役割でした。
- 数字を正確に読み解くことは、経営に欠かせない能力です。
- だからこそ私は長い間、「数字を深く理解すれば、より良い経営判断ができる」と信じていました。
しかし、少しずつ経営に関わるようになり、さらにエグゼクティブコーチとして多くの経営者と対話を重ねる中で、一つの気付きがありました。
- 『数字は意思決定の「答え」ではなく、「結果」を示しているに過ぎない』ということです。
例えば、利益率が低下しているという数字があったとします。その数字だけを見ても、原因は分かりません。
- ・価格競争が激しくなったのでしょうか。
- ・営業体制に課題があるのでしょうか。
- ・組織間の連携がうまくいっていないのでしょうか。
- ・あるいは、将来に向けた戦略的な投資による一時的な利益の低下なのでしょうか。
数字は「何が起きたか」は教えてくれます。しかし「なぜ起きたのか」までは教えてくれません。つまり、数字は何かによって現象を表現しただけであり、その背景には必ず原因があります。そして、その原因は一つではなく、人、組織、戦略、市場環境など、様々な要素が複雑に絡み合っています。
- 私はこれを「構造」と呼んでいます。
ここでいう構造とは、物事を部分ではなく全体として捉え、人・組織・戦略・市場環境などの関係性から、今起きている現象を理解するための視点です。
経営者の意思決定とは、数字を読むことではありません。数字の背後にある構造を理解し、その構造を変えるために意思決定を行うことです。
そう考えるようになってから、私自身の事業活動や経営に対する見方は大きく変わりました。
数字は重要です。しかし、数字は答えではありません。数字は、構造を理解するための一つの手がかりなのです。
2.経営者は「数字」と「感情」の間で意思決定している
では、その構造を理解するために、私たちは何を見ればよいのでしょうか。
ここで多くの経営者が直面するのが、
『数字で判断するべきか、それとも直感や感情を信じるべきか』
という問いです。
経営の現場では、「経営は数字だ」という考え方を耳にする一方で、「最後は経営者の直感だ」という言葉もよく聞かれます。
- 皆さんは、どちらの考え方に近いでしょうか。
実はこの問いそのものが、経営判断を難しくしているように感じます。なぜなら、数字と感情は本来、対立するものではないからです。どちらも意思決定に必要な情報であり、どちらか一方だけで経営を行うことには限界があります。
(1)数字だけで判断する経営
数字を重視する経営には、多くのメリットがあります。客観性があり、説明責任を果たしやすく、組織内で共通認識を持ちやすいからです。
しかし、数字だけを見ていると、見えなくなるものがあります。
例えば、
- ・利益率は改善しているが、社員のモチベーションは大きく低下している。
- ・売上は伸びているが、顧客との信頼関係が少しずつ失われている。
- ・コスト削減には成功したが、新しい挑戦をしようという組織文化が失われている。
これらは財務諸表には現れません。
つまり数字は、過去や現在の一面を表すことはできますが、人の感情や組織の空気、将来への兆しまで映し出してくれるわけではないのです。
(2)感情だけで判断する経営
一方で、経験や直感、思い入れだけに頼る経営にも落とし穴があります。
- 「この事業は自分が育ててきた。」
- 「この商品には強い思い入れがある。」
- 「長年付き合ってきた取引先だから。」
こうした感情は、経営者として決して否定されるものではありません。むしろ、企業の理念や挑戦を支える原動力でもあります。
しかし、その感情が客観的な判断を曇らせてしまうこともあります。
特に創業者や長年事業を育ててきた経営者ほど、過去の成功体験や愛着が意思決定に大きな影響を与えることがあります。
- 数字だけでも不十分。
- 感情だけでも不十分。
では、何が必要なのでしょうか。
私はその答えは、「数字」と「感情」のどちらかを選ぶのではなく、
『その両方を一段高い視点から俯瞰すること』にあると考えています。
つまり、数字も感情も、意思決定のゴールではありません。どちらも、経営の「構造」を理解するための重要な情報なのです。
しかし、その構造を見ることは簡単ではありません。なぜなら、私たちの思考そのものが、自分では気づかない偏りの影響を受けているからです。
次章では、経営判断を歪める「見えないバイアス」について考えていきましょう。
3.経営判断を歪める「見えないバイアス」
前章では、「数字か感情か」という二者択一で経営判断を考えること自体が、意思決定を難しくしていることをお伝えしました。
では、なぜ私たちは、数字も感情も理解しているにもかかわらず、判断を誤ってしまうのでしょうか。その大きな要因の一つが、「認知バイアス」です。
認知バイアスとは、私たちが無意識のうちに物事を偏って認識し、判断してしまう心理的な傾向を指します。
重要なのは、「認知バイアスがあること」ではありません。経営者であれ、管理職であれ、人である以上、誰もが認知バイアスを持っています。
本当に重要なのは、
『自分にも認知バイアスがある、と「自覚できるかどうか」』なのです。
ここでは、経営者が意思決定を行う際に、特に注意したい四つの認知バイアスをご紹介します。
(1)確証バイアス
確証バイアスとは、自分が信じたい情報ばかりを集め、自分の考えに反する情報を無意識に軽視してしまう傾向です。
例えば、新規事業への参入を考えている経営者がいるとします。
市場調査では懸念材料も示されているにもかかわらず、「市場は成長している」「競合も成功している」という情報ばかりを集めてしまう。
逆に、失敗の可能性を示すデータは、「今回は例外だろう」と自分本位に解釈してしまう。
- 皆さんにも、このような経験はないでしょうか。
経営者は強い信念を持つことが求められます。しかし、その信念が強いほど、自分に都合の良い情報だけを集めてしまう危険性も高まります。
(2)サンクコストバイアス(埋没原価バイアス)
「ここまで投資したのだから、もう少し続けよう。」これは多くの経営者が一度は経験する思考です。
しかし、過去に投じた時間やお金は、将来の意思決定とは本来切り離して考えるべきものです。
それでも、「多額の設備投資をしてきた」「長年育ててきた事業である」「思い入れのある商品である」という理由から、撤退の判断が遅れることがあります。
特に創業者やオーナー経営者ほど、このバイアスは強く働く傾向があります。
(3)過信バイアス
経営者は、成功体験を積み重ねて現在の立場にあります。その成功体験は大きな財産です。
しかし一方で、「今回も上手く行くだろう。」「これまでの経験があるから大丈夫だ。」という過信にもつながります。
実際には、市場環境も、社員も、顧客も変化しています。過去の成功法則が、そのまま未来にも通用するとは限りません。
(4)アンカリング
最初に得た情報や数字に、判断が引きずられてしまうことをアンカリングと言います。
例えば、
「昨年は売上が10億円だった。」という数字があると、今年もその数字を基準に考えてしまいます。しかし、本当に見るべきなのは、市場環境、競争環境、顧客価値かも知れません。最初の数字が思考の出発点になることで、本質を見失ってしまうことがあります。
ここまで四つの認知バイアスをご紹介しました。
しかし私は経営者との対話を通じて、あることを強く感じています。認知バイアスを知るだけでは、意思決定の質は変わりません。
なぜなら、「自分は大丈夫」と思ってしまうこと自体が、既に「認知バイアス」に陥ってしまっているからです。
では、どうすればよいのでしょうか。私がたどり着いた答えは、
『認知バイアスを無くそう、とするのではなく、一段高い視点から自分の判断を「俯瞰する」こと』です。
その考え方を、私は「構造起点思考」と呼んでいます。
4.強い経営者は「構造起点思考(SDCモデル)」で意思決定する
ここで、少し私自身の話をさせてください。
私は長年、企業で経理・財務の仕事に携わってきました。財務分析を行い、予算を策定し、数字から会社の状態を読み解くことが仕事でした。数字には自信がありましたし、「数字こそ経営を語る共通言語」だと考えていました。
そんなある日、後日談として当時の上司の上司が、私をこのように評価していたことを知りました。
「砂村は経理財務マンとしては優秀だ。しかし、今のレベルに留まっていては、これより上位の職位には上げられない。」
その言葉を聞いたとき、正直なところ意味が分かりませんでした。なぜなら私は経理財務のプロフェッショナルを目指すべく、その業務に専念し、極めることにエネルギーを注いでいたからです。
- 数字を読める。
- 財務分析もできる。
- 経営数字も理解している。
それなのに、なぜ評価されないのだろう。
しかし、その後、海外での経営経験や、多くの経営者との対話を重ねる中で、ようやくその意味が分かりました。
私は、『「数字」という一つのレンズでしか、経営を見ていなかった』のです。
経営とは、数字だけではありません。人がいます。組織があります。歴史があります。文化があります。市場があります。そして、それらが複雑に関係し合う「構造」があります。数字は、その構造の一部を表しているに過ぎません。
私はこの気付きを得てから、事業運営や経営を見る視点が大きく変わりました。
- ・まず構造を見る。
- ・その構造を数字で検証する。
- ・さらに、人や組織の文脈(Context)を理解する。
この順番で考えることで、意思決定の質が大きく変わることを実感するようになりました。
私は、この思考習慣を
『「構造起点思考(SDCモデル)」』と呼んでいます。
SDCとは、
- ・Structure(構造)
- ・Data(数字・事実)
- ・Context(文脈・人・感情・環境)
の頭文字です。
そして重要なのは、この三つを同じ重みで見ることではありません。最初に来るのは、あくまでも構造(Structure)です。
つまり、
「何が起きているのか」ではなく、『「何がそのような状態を引き起こしているのか」という構造を俯瞰する』ことから、意思決定を始めるのです。
その上で、
『数字(Data)によって自分の仮説を検証し』、さらに、『人・感情・組織文化・利害関係・タイミングなど(Context)を踏まえて』意思決定を行う。
つまり、このような流れです。
構造を見る
↓
数字で確かめる
↓
文脈を理解する
↓
意思決定
これが、私が30年以上の経理財務の実務経験とエグゼクティブコーチとしての経験を通じて辿り着いた思考習慣です。
一方、私はこの考え方が万能な理論だとは思っていません。
しかし少なくとも、「数字だけ」「感情だけ」で判断していた頃よりも、はるかに多面的で、質の高い意思決定が出来るようになっているように感じます。
そして、多くの経営者との対話を通じても、この順番で思考を整理すると、新たな視点や選択肢が見えてくる場面に数多く遭遇しています。
5.「構造起点思考」を後押しする仕組み
ここまでお読みになった方の中には、こう感じた方もいらっしゃるかも知れません。
- 「SDCモデルの考え方は理解できた。しかし、実際に自分一人でできるものなのだろうか。」
結論から申し上げると、残念ながら「簡単ではありません。」
その理由は、認知バイアスのところでも触れましたが、人は自分の思考の癖や前提を、自分自身では見つけにくいからです。
私自身も、長年「数字という一つのレンズでしか事業や経営を見ていなかった」ことに、自分では気付いていませんでした。
だからこそ経営者には、自分とは異なる視点を持つ存在が必要になると感じます。
例えば、
- ・信頼できる経営者仲間
- ・社内参謀や右腕
- ・社外取締役
- ・メンターやエグゼクティブコーチ
などです。
これらの人たちに共通しているのは、「答えを教えてくれる人」ではありません。
- 『自分では見えていない構造を、一緒に見つめてくれる存在』である点です。
私はエグゼクティブコーチとして多くの経営者と対話をしていますが、コーチングセッションで大切なのは、「新しい知識」をお伝えすることではありません。
むしろ、
- 「その出来事を、なぜそのように捉えているのでしょうか。」
- 「その判断の背景には、どのような前提がありますか。」
- 「もし別の立場から見たら、どのように見えるでしょうか。」
そんな問いを通して、経営者ご自身が「構造を見つめ直す」時間をご一緒しています。
すると不思議なことに、それまで「数字か感情か」という二者択一で考えていた課題に、自ずと第三の選択肢が見えてくることがあります。
例えばある経営者が、「社員が変わらない」という問題を抱えていました。
- しかし対話を重ねる中で見えてきたのは、社員ではなく、経営者自身のコミュニケーションや期待の伝え方という「構造」でした。
また別の経営者は、「投資を続けるか撤退するか」という二者択一で悩んでいました。
- しかし構造を整理していくと、実は「投資額」ではなく、「事業の目的」が曖昧になっていることが、本質的な課題だったのです。
このように、構造が見えると、意思決定そのものが変わります。
この真髄は、
『「正しい答えを見つけること」ではなく、「正しい問いを立て直すこと」』
そして、その問いを立て直すことこそが、構造起点思考を実践する第一歩なのです。
6.まとめ:強い経営者は「正しい答え」を探さない
経営者には、毎日数多くの意思決定が求められます。そのたびに、
「数字を見るべきか。」それとも「直感を信じるべきか。」と考える場面もあるでしょう。
しかし本当に優れた経営者は、そのどちらかで選んでいる訳ではありません。
- まず、物事の構造を俯瞰する。
- 次に、数字や事実でその構造を検証する。
- そして、人や組織、社会の文脈を理解したうえで、意思決定を行う。
この思考習慣が『構造起点思考(SDCモデル)』です。
私は今でも、意思決定に迷うことがあります。そんな時は、数字を見る前に、自分へ問い掛けます。
- 「私は今、どのレンズだけで物事を見ているのだろう。」
この問いが、私自身の思考を俯瞰する出発点になっています。
もちろん、この考え方がすべての意思決定を正解へ導く万能な方法ではありません。
経営には正解のない問いが数多く存在します。
だからこそ、重要なのは「正しい答え」を探し続けることではなく、自らの思考を俯瞰し、問いを更新し続けることではないでしょうか。
最後に、皆さんへ一つ問いをお贈りします。
今、皆さんが向き合っている最も重要な経営判断は、
『「数字」というレンズだけで見ていないでしょうか。』あるいは、
『「感情」や「経験」だけで判断していないでしょうか。』
もしそうだとしたら、一度立ち止まり、
- ・その出来事の「構造」は何か。
- ・数字は何を語っているのか。
- ・そして、人や組織の文脈はどうなっているのか。
この三つの視点から見直してみてください。きっと、これまで見えていなかった景色が見えてくるはずです。
経営とは、「正しい答え」を見つける営みではありません。問い続け、学び続け、意思決定の質を高め続ける営みです。
その積み重ねが、組織の未来をつくり、経営者自身を成長させていくのだと信じています。
経営者として成長するとは、知識を増やすことではなく、物事を見る「レンズを増やし続ける」ことなのかもしれません。
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